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2025.12.18

コーポレートサイトは誰のために?ーーAIO時代のBtoBマーケティング再考

谷古宇浩司

執筆

STUDIO WooFoo Inc.|andSTORY Inc.|Producer

K.Y.

「AIに引用されない」という焦り

「うちの記事、生成AIに引用されないんですよね」。先日、ある企業のマーケティング責任者からこんな相談を受けました。彼は真剣な表情で、競合他社の記事がAIに引用される一方、自社の記事が生成AIに「スルーされる」ことに危機感を抱いていたのです。

「AIO(AI Optimization)」という言葉が飛び交い、多くの企業がAIに最適化されたコンテンツ作りに躍起になっています。SEOの次はAIOだ、と。そんな空気がBtoBマーケティングの現場に漂っています。

私は彼に尋ねました。「そうですか。ところで、貴社のコーポレートサイトは、何のために存在しているんですか?」

彼は一瞬、言葉に詰まったようでした。質問の意図が理解できなかったのかもしれません。

目的を見失ったマーケティング

AIに引用されることが、コーポレートサイトの存在理由なのでしょうか? 検索エンジン経由のアクセスがなければ、Webサイトは無価値なのでしょうか? そもそも、あなたの会社のコーポレートサイトは、「生成AIの参照元データベース」になるために存在しているのでしょうか?

違うはずです。では、BtoB企業のコーポレートサイトが本来果たすべき役割とは何でしょうか。

例えば、商談前の見込み顧客に信頼感を与えること。彼らは明日の(1週間後の)プレゼンテーションに備えて、あなたの会社の事例や技術力を確認するかもしれません。あるいは、取引先に事業内容を正確に伝えること。新規プロジェクトの打診を受けたパートナー企業は、あなたの会社の対応範囲や専門領域をチェックするでしょう。採用候補者に企業文化を知ってもらうことも重要です。LinkedInで求人情報を見つけたエンジニアが、入社後のキャリアパスや働く環境を知りたいと思った場合、まずはコーポレートサイトを訪れるはずです。さらには、株主や地域社会にアカウンタビリティを示すこともコーポレートサイトの大切な役割です。IR情報、サステナビリティレポート、地域貢献活動。これらは生成AIに引用されることより、ステークホルダーに直接読まれることに価値があります。

このような「文脈のある訪問」こそ、BtoB企業のコーポレートサイトにとって、価値の高いトラフィックといえるのではないでしょうか。

「AIに引用されることが無意味だ」といいたいわけではありません。検索流入にも、AIによる引用にも文脈はあります。問題は思考方法なのです。ある種のマーケターのみなさんはおそらくこう考えています。

「AIに引用される→検索流入が増える→リードが増える→売上が上がる」。じゃあ、AIに引用されるには「どう」すればいい?

間違っているわけではないと思います。確かにそうかもしれません。ただ、ここには「AIに引用される」前の思考ステップがありません。「どう」するかではなく、「なぜ」そうなのかを考えるということです。AIはなぜ、あなたの会社が発信する情報を引用するのでしょうか。それは以下のような理由があるからです。

「専門性の高い情報を発信する(それが自社の強みだから)→既存顧客や見込み顧客に信頼される→商談の質が上がる→紹介や指名検索が増える→『結果的に』その情報がAIにも引用される→検索流入が増える……」

AIに引用されることは「結果」であって「目的」ではないのです。あなたの会社が、本当に価値ある専門知識を持ち、それを正直に、そして、AIが読み取りやすいような構造でパッケージングして発信すれば、AIはそれを「良質な情報として評価」します。

実際、私が支援したある製造業のクライアントは、検索流入を意識せず、既存顧客からよく受ける技術的な質問に丁寧に答えるFAQページを充実させました。結果として、その情報は業界内で評価され、商談での信頼構築に大きく貢献しました。そして半年後、そのFAQページは生成AIでも頻繁に引用されるようになっていたのです。

価値の測り方を変える

ここで、根本的な問いに立ち返りましょう。あなたの会社のコーポレートサイトは、誰のために存在しているのでしょうか?

明日商談に来る見込み顧客のためでしょうか? 社名を聞いて興味を持った採用候補者のためでしょうか? 既存顧客が新サービスを確認するためでしょうか? それとも、生成AIの回答精度を上げるためでしょうか?

もし最後の選択肢を選ぶなら、あなたは完全に道を誤っています。

BtoBマーケティングにおいて、コーポレートサイトが果たすべき役割は明確です。それは、「貴社(あなた)と取引をするかもしれない人」に必要な情報を、必要なタイミングで提供することです。

見込み顧客が商談前に不安を解消できること。取引先が事業内容を正確に理解できること。メディアが取材前に会社の立ち位置を把握できること。投資家が決算情報にアクセスできること。こうした「文脈を持った訪問者」に対して、きちんと応答できるサイトになっているかどうか。

検索流入がゼロでも年間100件の商談につながるサイトと、検索流入が月10万PVあっても商談ゼロのサイト。あなたはどちらを選びますか? 答えは明白です。にもかかわらず、多くの企業がPV数、検索順位、そして今やAI引用回数といった「見栄えの良い数字」に目を奪われています。

本当に測定すべきKPIは、訪問者数ではなく、商談化率です。滞在時間ではなく、資料ダウンロード後のアポイント率です。直帰率ではなく、サイト訪問後の受注率です。

なぜ引用される記事とスルーされる記事があるのか

ここで、冒頭の問いに戻りましょう。なぜ、引用される記事と無視される記事があるのでしょうか。答えはシンプルです。引用される記事は、そもそも「誰かの役に立っている」から引用されるのです。

具体的なデータがある、明確な主張がある、専門的な知見がある、読者が次のアクションを取れる。そうした記事は人間にとって価値があるから、結果的にAIにも引用されます。

例えば、「当社の○○技術が△△業界の課題をどう解決したか」という事例記事。これは見込み顧客にとって有益であり、同時にAIが類似の課題を持つ人に情報提供する際の参照元にもなります。あるいは、「業界の規制動向と実務への影響」という解説記事。これは既存顧客の業務に直接役立ち、結果としてAIが業界情報を求める人に紹介する「価値ある情報源」になります。

逆に、「AIに引用されるため」に最適化された記事は、どこか空虚です。ファクトは並んでいますが、洞察(インサイト)がありません。文章構造は整っていますが、書き手の熱量が感じられません。そして何より、読み終わった後に、ほとんど何も残りません。

「AI引用最適化」と称して、検索キーワードを詰め込み、構造化データをマークアップし、Q&A形式で記事を書く。しかし、そこに書かれているのはすでにWeb上に溢れている二番煎じの情報ばかりです。

AIは賢いものです。表面的な最適化を見抜きます。本当に価値のある情報と、引用されるためだけに整形された情報の違いをおそらく私たちが思うより正確に判別しています。

本質に立ち返る

コーポレートサイトの目的を思い出しましょう。そして何より、あなたの会社のコーポレートサイトが、誰のために存在しているのか、もう一度考え直しましょう。答えは貴社の顧客、貴社のパートナー、貴社の株主、貴社の従業員、そして、これから貴社(あなた)と関わるかもしれない全ての人々のためです。彼らが必要とする情報を、誠実に、わかりやすく、(人間とAIが)アクセスしやすい形で提供する。それがコーポレートサイトの存在理由です。その延長線上に、生成AIによる引用があります。それはあくまで「副産物」であり、「ボーナス」です。しかし決して、第一の目的ではありません。

AIO時代だからこそ、私たちは原点に戻るべきです。テクノロジーが変わっても、マーケティングの本質は変わりません。それは「価値ある人々に、価値ある情報を届けること」です。その先に、私たちが追い求める問いへの本当の答えがあります。

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